2009年6月7日日曜日

ジョセフ・キュリアール 『目覚め』

ジョセフ・キュリアール指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 英Black Box BBM1050

ジョセフ・キュリアール初のアルバムのリリースが、ジャケットを変更して発売された。以下、オリジナル・デザインのCDがアメリカで発売された時の感想を、そのまま転記しておく。

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作曲者の詳細については、キュリアール自身が作ったウェブページに、あえて記したくないとある。作曲家の民族的背景、教育歴が、しばしば音楽理解を妨げ、誤解を招くからだというのが彼の主張。なるほど。しかし、一方で音楽に興味を持った聴き手が、その作り手に興味を抱くのも、自然な発想だろう。大切なのは、音楽が先に来る、音楽が主であるという発想から始めることではないかと思う。

ということで、彼の背景について知ることはできないのであるが(CDの解説書に、各作品に対する解説は収められている。楽曲解説は「誤解」を招かないのだろうか? クロノス・カルテットとはスタンスが違うのかな?)、聴いた感じでは、アジア文化に影響を受けたアメリカ人による、ハリウッド映画音楽を彷佛とさせるオリエンタリズム〜環境主義音楽〜エキゾチシズムを聴いたと感じである(もちろん、こういった概念化にも、異論があるだろうが、私はてっとり早く私の印象をまとめるものとして使っている。実際に聴いた人が違う印象を持ったり、私に反論するのは有効だと思う)。
おそらくこのアルバムで最も印象に残るのは、最初の《黄金の門》という作品だろう(日本では「ゴールデンゲート」というと、しっくりくるのだろうか)。カリフォルニアに住む中国系移民がテーマになっているそうだが、中国人の抱くアメリカン・ドリーム、そして自ら大切にする中国の音楽伝統という感じがする。このCDではヴァイオリン独奏になっているが、二胡で演奏されることもあるようだ。二胡による演奏ならば、あの独特のアクセントのきき方、金属弦の鋭い音が、より強い民族色を出すに違いない。
民族色を取り除けば、開き直りの調性音楽だとも言える。特にあの最後のティンパニーの打ち下ろしは、最近の映画音楽でも、あまりにおもむろ過ぎて、やらないのではないだろうか。

よりムード音楽的な残りの作品に関しては、ギターとオーケストラのための《アデリーナ・デ・マヤ》が、私には楽しめた。アルバム・タイトルの《目覚め》は、祈りのような前2楽章と、それに対照的な外向的なフィナーレといった感じ。amazon.com感想欄にはアダムスの影響を見る人もいるようだが、おそらくそれは《The Multiples of One》(《一人一人が集まって》って感じ?)のことを指しているのだろう。

個人的にはBGMなどにも使えそうなクラシック・ファン向けの楽しいCDだと思う(01.5.4.、01.11.06訂正、02.2.12.改訂) 

2009年6月6日土曜日

グールド:シンフォネット第2番(1939)

ケネス・クラーク指揮ロンドン交響楽団 米Albany TROY 202
Naxos Music Libraryへのリンク→http://ml.naxos.jp/work/207862



Naxos Music Libraryでは、シンフォネット第2番という表示になっているが、原題はSymphonette No. 2, "Second American Symphonette"、つまり副題として《第2アメリカン・シンフォネット》という名称が付けられている。グールドには《ラテン・アメリカン・シンフォニエッタ》という曲もあって、紛らわしい。

この曲は3つの楽章で構成されているが、第1楽章はスイングのリズムに合わせて、冒頭の動機が何度も展開される。

第2楽章は《パヴァーヌ》として、ポップス・コンサートなどで独立して演奏されることもある。冒頭に現われるミュート・トランペットの旋律が特に親しまれているようだ。伴奏をつとめるファゴットは特別スイングしているわけではないが、三連符とスキップするリズムがジャズ色を濃くしている。副題にある「アメリカ」は北米を指すということが推測できよう。

第3楽章はチャールストン風なリズム型が支配的。しかしクラシックっぽいがっちりしたリズム型やスイングも混ざってくる。

ロンドン交響楽団は明るい音色のオーケストラだが、ややジャズ的なノリに欠けるところもある。なお、この録音はもともと英EMIからリリースされたが、ここに紹介したAlbany盤は、同じ音源を作曲者の追悼盤として発売したものである。(2002.2.5.改訂、2009.6.6. 改訂)

グールド:ラテンアメリカン・シンフォニエッタ (3)


ハワード・ハンソン指揮イーストマン・ロチェスター交響楽団 米マーキュリー MG 50075(LP)

諸々のフレージングやリズムの感じ方には「交響楽団らしさ」を感じるところもあるが、ラテンの味わいも考慮に入れた、といったスタンスに聞こえる。まずは米 Citadelレーベルから出ている自演盤から聴きたい。よりラテンでシンフォニックだ、と平凡にその良さを述べることができる。(01.3.7.、01.12.8.改訂)

グールド:ラテンアメリカン・シンフォニエッタ (2)


フェリックス・スラトキン指揮ハリウッド・ボウル交響楽団 米Pickwick SPC-4044(LP)

米Capitol原盤。最終楽章のコンガのリズムが通常聴かれるのと違ったように思ったが気のせいか。個人的には、同時収録のガーシュイン(ラッセル=ベネット編)の《ポーギーとベス:交響的絵画》の方が好きだ。

グールド:ラテンアメリカン・シンフォニエッタ



モートン・グールド指揮ロンドン交響楽団 米Citadel CTD88130

やはりこの作品を聴くなら、指揮者としての経験も豊富な、作曲者のグールド指揮の演奏が良いのではないだろうか。鳴りのよいロンドン響だが、スイング感もはっきりしていて気持ちがよい。また、この盤では《ラテン・アメリカン・シンフォニエッタ》以外にもグールド作品が収録されている(行進曲の旋律による交響曲から<クイックステップ>、《フォール・リヴァー・レジェンド》、《祝祭的音楽》、《自由のファンファーレ》、映画『大西洋二万哩』からメイン・テーマ)。また、ヒナステラのバレエ組曲《エスタンシア》も収録されている。(02.6.5.)

2009年6月5日金曜日

ノーマン・デロ=ジョイオ:変奏とカプリッチョ

パトリシア・トラヴァース(ヴァイオリン)、ノーマン・デロ=ジョイオ(ピアノ)Columbia ML 4845 (LP)

ナクソス・ミュージック・ライブラリー→http://ml.naxos.jp/work/1381936

簡素なスタイルで書かれた変奏曲。しかし(作曲者によるオリジナルの)主題の提示はピアノの前奏と無伴奏のヴァイオリンというユニークな構成。変奏のための和声的な枠組みはピアノが行い、ヴァイオリンは寄想曲な性格を出しているようだ。また、変奏も四角四面的ではなく、あちこち自由にたゆたうようであり、そういう面からも「寄想曲的」なのかもしれない。作曲者のデロ=ジョイオは、この作品は「簡素で歌いやすい構想で書かれており、叙情的でもある」とし、「この作品は、テクスチュア的には軽く、和声的には簡素で、形式的にはシンプル(と受け取ってもらえるといいのだが)である」としている。一筋縄に古典的作品として味わえないところもあるが、現代的センスを生かした、しとやかで爽快な作品であるとは思う。(99.7.9.、99.9.11.アップデート)