2017年2月20日月曜日

作曲家の覚書:フィリップ・グラスとオペラ制作

A Composer’s Notes: Philip Glass and the Making of an Opera.  Orange Mountain [DVD].

グラス第3作目のオペラ、《アクナーテン》の制作過程を追うドキュメンタリー映画(モノラル)。かつてVAIからビデオが出ていたが、グラス自身のレーベルOrange MountainからDVD化された。

映画はまず、グラスの音楽語法に大きく影響したクラシックの基本的トレーニングやインド音楽との出会い(特に作曲家と演奏家の関係の違 い、「劇音楽(舞台音楽)」の発想など)などがインドの美しい映像を通して紹介されたあと、オペラにたどり着いた経緯が述べられる。そして前2作から学ん だことを下地に第3作をどのように作っていったのかが、インスピレーションの段階から丁寧に描かれていく。エジプトに実際に行って得たこと、エジプト学者 からアクナーテンが実際に読んだと言われる歌のテキストをもらったこと、様々な演出家や指揮者との打ち合わせ、意見の交換など、興味深い内容に溢れてい る。

オペラ《アクナーテン》の制作過程を映像とともに追うと、グラスがどのように共同作業として1つのプロダクションを作っていくのかが分 かるし、オペラに取り上げた題材に対する柔軟な考え(あるいは「つめ」の甘さ?)が垣間見られたりする。とくに演出家から浴びせられる厳しい質問にグラス がたじたじになる場面があり、そこで彼がむしろ演出家から意見を自由に求めていく態度が見られる。彼は音楽表現との関連がステージの演出に見られれば、そ の解釈は認められるという考えをもっているようだ。

したがってこのビデオに収められているシュトゥットガルトとヒューストンのプロダクションは、これが本当に同じ作品なのかと思えるほど 違っている。政治的思想が暗示されていることを前面に打ち出し身振りの一つ一つまで細かく演出する前者と、音楽と歴史的題材をもとに即興的に物語りを紡ぎ 出す後者。それが結果としてどのように舞台を作り上げたのかということかが分かる。

このオペラが成功だったのかどうかは、初演後の大きな拍手とブーイングの錯綜からも察せられるように議論が分かれるだろうが、これがグラスにとって初めてオーケストラを使って本格的に書いたオペラであることから、作曲家自身にとってはこの作品が大きな節目を作っていたらしい(前作の《サチャグラハ》にもオーケストラを起用したが、あれはグラス・アンサンブルのための音楽をオーケストラに直しただけのものだったという。また、物語が単純なファンタジーとして音楽とともに投射されたことに不満もあったようで、《アクナーテン》では、もっと継続的な物語の流れを前面に打ち出したかったらしい)。

グラスの作品はオーケストラにとって、とても挑戦的だったらしい。何度も同じ音符を繰り返し演奏することにより、演奏家が集中力を保持することができなることが多いという。オランダでは、あまりにも演奏しにくい音楽ということで裁判沙汰にもなったらしい(映画ではヒマそうに雑誌のページ をめくっているコントラバス奏者も写っているが)。
とはいえグラスの音楽は、この《アクナーテン》のように物語や映像の補助があると接近しやすくなってくる(あるいはビデオでは長いオペ ラが数分刻みの抜粋になっているから我慢できたのかな?)。一度このビデオを見て、実際にそれを体験する価値もあるのではないだろう…か。

以下、YouTubeにあった抜粋の動画である。




(1998.8.18.執筆、2005.5.3. 改訂ならびに画像追加、2014.12.10. YouTube動画追加、2016.8.18. DVDへのリンク付加ならびに動画変更、2017.2.15. 情報追加)

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